弓 道
3. 現代弓道
〔射 法〕
古来より的前では1本の矢を発射するための心身の一連のありようを五つ、七つ、あるいは12に区分しこれを「五味」、「七道」、「十二の掟(おきて)」などと称していたが、今日では昭和前期なって「七道」に残身(ざんしん)(心)を加えた「射法八節」として次のように説明している。
(1)足踏み
下半身を安定させるため足を左右に踏み開く動作およびその形で、両足の広さは身長の約2分の1(矢束の長さ)、両足の角度は約60度、的と両足拇指が一直線になることを基本とする。踏み開き方には「一足」と「二足」の2方法がある。
(2)胴造り
上体を正しく腰に据え、背筋をまっすぐに伸ばし、呼吸を整え、心気を丹田に納めることをいう。
(3)弓構(ゆがま)え
射に入る準備動作で、取懸け(つがえられた矢と弦の持ち方)、手の内(発射に際し合理的に弓を働かせるための左手指の握り方)、物見(ものみ)(標的を正しく見込むための顔の向け方)の3動作とその完了した形をいう。弓構えには、取懸けをした後ほぼ(は)(握り部と弦との間隔のこと)の高さのままで体正面で手の内を整える方法と、取懸け後弓を体左前方に移行し、少し弓を押し開き手の内をつくる方法とがある。
(4)打起(うちおこ)し
弓を引き分けやすくするため、弓を適当な高さまであげる動作とその完了した形をいう。打起しの方法には大別して、両拳の平衡を保ちながら体正面に構えた弓を体前上方にあげた後左斜め前に両拳を運び大三(だいさん)(竹林派の教えの一つで押大目引三分一(おしだいもくひけさんぶいち)の略。父母大三(ふぼだいさん)・肘力(ちゅうりき)ともいう。正面打起しの場合、打起しの後引分けに移る準備として弓手を左斜めに送り差し伸ばし、馬手(めて)は前腕を曲げ弓手(ゆんで)の方に弦が引かれる力に対応し、左右の力の均衡を保つ動作およびその形をいう。斜面打起し射法における打起しの極に相当する)に移行する方法、体前上方に弓をあげ、途中で止めないで大三に移行する方法、弓構えの段階で体左前方に構えた形から両拳の均衡を保ちながら体斜め前上方に打ち起す方法とがある。
(5)引分(ひきわ)け
弓を左右に引き分ける動作をいう。矢をつねに水平に保ちながら左右上腕の力を均衡にして押し開き、「会(かい)」の形まで引き込む過程をいう。
(6)会
引分けの完了した形をいう。形上発射の準備、すなわち正しいねらい、引くべき矢束(やつか)、胸弦(むなづる)、頬付(ほおづ)けが整った段階で、これを「詰合(つめあ)い」という。さらにこの形から上下左右に気力を充実、伸展させることを「伸合(のびあ)い」というが、この「伸合い」の極で発射の直前の心気の状態を「(やごろ)」という。
(7)離れ
形式的にいえば馬手(右手)の弦枕(つるまくら)から弦が離れ、弓の復原につれて矢を送り出す動きをいう。「伸合い」から「」に達した絶好の瞬間馬手・弓手相応じ意識して放すことの鍛錬を通して、これが反射運動となって「離れ」の動作をおこすことを理想とする。射術上この離れはもっともむずかしいものとされている。
(8)残身(心)
発射した後の緊張がもとに戻るまでの形と心の状態をいう。射の総決算であり、離れまでの一連の動きの良否はこの残身(心)に表れるとされている。
[ 執筆者:入江康平 ]
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